マクラーレンホンダのF1開発現場ドキュメンタリー「Amazonのグランプリドライバー」を視聴した感想

Amazonの有料会員向けサービス(月額400円、1ヶ月間の無料体験あり)であるプライム・ビデオでグランプリドライバーというタイトルでF1の2017年シーズン開幕前のマクラーレンホンダのドキュメンタリー作品全4話が見れます。

Amazonプライム・ビデオのグランプリドライバー
Amazonプライム・ビデオのF1ドキュメンタリー

マクラーレンホンダは3年間のF1参戦において満足いく結果を残せずに、まだ契約を残した状態ながら提携を解消したのはご存知の通り。

そんな結果的に提携最終年となってしまった2017年シーズンが始まる直前の新マシン開発状況が垣間見える本作品は今までにないF1ファンにとっては一度は見ておきたい作品になってます。

マクラーレン側のF1マシン開発遅延

マクラーレンホンダの成績が低迷した理由として挙げられるのが、ホンダのエンジンを含むパワーユニット(PU)です。

馬力が他のメルセデス・ベンツやフェラーリ、ルノーといったライバルに比べて低いとされ、更によく故障するなど信頼性が低いことが日本含め世界中のメディアにて報じられました。

もちろんホンダのエンジンも成績が低迷した大きな理由なのでしょうが、Amazonプライム・ビデオでマクラーレンホンダのドキュメンタリーを見ると、マクラーレン側の新マシン製造遅れによって当初予定していたシェイクダウンが出来ずに、ぶっつけ本番でテストに望まなくてはならない状況になるなど、ホンダ側だけの問題でないことが見えてきます。

フロアの製造が送れるマクラーレンF1
フロアの製造が送れるマクラーレンF1
マクラーレンF1マシンのフロア
マクラーレンF1マシンのフロア
フロア以外にもノーズボックスやリアブレーキダクトに製造の遅れが発生
フロア以外にもノーズボックスやリアブレーキダクトに製造の遅れが発生

ホンダのF1エンジン開発状況も遅延

勿論動画の中ではホンダのF1エンジン開発状況についても触れられていて、パワーユニットに問題が続発し、開発が遅れる様子が描かれています。

ホンダ側の開発スケジュールも遅延
ホンダ側の開発スケジュールも遅延

ホンダのF1エンジンは日本のHRDさくらと呼ばれる施設で研究開発が行われています。

そしてそこでアッセンブリー(組み立てられた)されたエンジンとパワーユニットがイギリスにあるマクラーレンのファクトリーに送られてきます。

日本のホンダから送られてきたF1エンジン
日本のホンダから送られてきたF1エンジン

しかし、いざマクラーレン側の新型マシンと組み付けようとすると中々上手く接続できません。

マクラーレンの車体と接続に問題が発生したホンダ
マクラーレンの車体と接続に問題が発生したホンダ

最初に製造したものが他のパーツ上手く接続できないといった事は、製造業でエンジニアをされている方ならば日常茶飯事であることなので特に驚くことはないと思います。

3DCAD上で他のパーツとの組み立て性や干渉チェックは行いますが、こういった問題はつきまといます。

映像の中では、マクラーレンのエンジニアとホンダのエンジニアが議論して直ぐに図面を引き直して、問題のあった部品を数時間以内に製造し直す様子が描かれています。

マクラーレンのエンジニアがホンダに図面の提供を依頼
マクラーレンのエンジニアがホンダに図面の提供を依頼

しかし、この場面で気になったのがマクラーレンのエンジニアからホンダのスタッフに設計図をもらえないかと打診している場面です。※上のシーン

ホンダのエンジンを含むパワーユニットと、マクラーレンの車体を接続するのに、ボルトやピンといった接続に関係する部分の図面を共有していなかったのでしょうか?

パワーユニット内部の図面は、当然ホンダはマクラーレン側に公開はしていないと思いますが、アッセンブリーするのに外寸やボルトや穴位置寸法は共有しないと接続できません。

映像の演出上こういった会話がなされている可能性もありますが、両社の機密保持契約(NDA)がどうなっていたのかが気になりました。

ホンダエンジンの点火と始動が上手くいかない

マクラーレン側のニューマシンとホンダのエンジン・パワーユニットの接続が進むと、エンジンの点火ができるかのチェックが行われます。

F1のニューマシンに搭載されたエンジンを初めて点火させるのは、F1に参戦する各チームが毎年オフシーズンにX(旧Twitter)などのSNSで発表する恒例イベントとなっています。

F1チーム自体にとってもこれは大きなイベントで、今回のドキュメンタリーにおいてもファクトリー内の多くのスタッフが点火現場に集まって、その様子を見守っていました。

エンジンの始動チェック開始
エンジンの始動チェック開始
エンジン始動の合図を行うホンダのエンジニア
エンジン始動の合図を行うホンダのエンジニア

しかし、各種制御ソフトウェアも連携した自動での点火は成功せず、エンジンは始動しません。

マシンに組み付けられたホンダのエンジンが始動しない
マシンに組み付けられたホンダのエンジンが始動しない
エンジンの点火始動テストの様子
エンジンの点火始動テストの様子

作業エリアに集まった大勢のスタッフも心配そうにマシンとエンジンを見つめます。

ファクトリーの作業エリアに集まったスタッフ
ファクトリーの作業エリアに集まったスタッフ

結局自動での点火始動は諦め、手動でエンジンを点火させることになりました。

新マシン発表会までに完成せず

F1チームは毎年新しいマシンを開発制作し、シーズン前のテスト走行前に発表会というお披露目会を行います。

マイルドセブンやロスマンズなどタバコのスポンサーが付いていた頃は大々的な発表会が行われていましたが、2000年代になってからは多くのチームがサーキットで簡単にお披露目する形となっています。

そんな中でマクラーレンは、自社にマスメディアを呼んで発表会を行う数少ないチームの1つです。

しかし、結局新マシンの製造遅延は挽回できず、新車発表会には内部が完成していない状態のマシンを展示することになりました。

新車発表会用にボディーパネルを取り敢えずはめるマクラーレン
新車発表会用にボディーパネルを取り敢えずはめるマクラーレン

マクラーレンとしては、当初スペインへと持っていくテスト用のマシンに加えて発表会用にもう1台組み上げる予定だったようです。

しかし、結局テスト用の1台も発表会までに組み上げる事が出来ないほど遅れてしまっていたわけです。

因みに、発表会に向けてマシンに各種スポンサーやテクニカルパートナーのロゴやステッカーを貼るのですが、こういった作業は広報の方々が行うことを今回の映像で知りました。

マシンにホンダのロゴを貼る様子
マシンにホンダのロゴを貼る様子

新車発表会の開催と舞台裏

堂々とした英語でプレゼンするホンダの長谷川F1プロジェクトリーダー
堂々とした英語でプレゼンするホンダの長谷川F1プロジェクトリーダー

なんとか表面的には完成した新車を展示した新車発表会が始まります。

発表会の前には、ドライバーのフェルナンド・アロンソとストフェル・バンドーンが、広報担当幹部からメディアからの想定される質問に対する回答について打ち合わせを行う様子も放送されています。

チームからのプレスリリースや、メディアからの質問に対する回答などはチームの好感度やスポンサーに対する影響もあるため、チーム側がある程度ドライバーのコメントに対して注文を付けることは想像していましたが、その様子を実際に見ることができるのは貴重です。

新車発表会に参加している元ホンダ広報の糸賀晶子さん
新車発表会に参加している元ホンダ広報の糸賀晶子さん

動画を見ていると、マクラーレンやホンダの幹部スタッフだけでなく、ホンダの広報メンバーも映っていました。

その中の1人が糸賀晶子さんです。

糸賀さんは、この新車発表会が行われた数週間後の2017年2月末にホンダを退職します。

糸賀さんには、2016年12月にF1の現場から日本国内へと戻るようにホンダから異動の内示が出ていたそうです。

しかし、すっかりF1の仕事に魅了された糸賀さんは正社員という安定した立場を捨てて、契約社会のF1チームで働くことを選んだのです。

ホンダからザウバーへ。広報としてF1界で活躍する日本人

少し話が脱線しましたが、新車発表会が無事に終わるとマシンがファクトリーに戻ってきて、残り1週間弱と迫ったテストに向けて組み立て作業が再開されます。

新車発表会から戻ったマシンをテストに間に合わせるために作業を再開
新車発表会から戻ったマシンをテストに間に合わせるために作業を再開

しかし、各種パーツの製造遅延は完全には解消されず、パーツが揃わない状態でスタッフは対応に追われます。

マクラーレンの製造&組み立てマネージャーのジョノ・ブルックスは、各パーツが出来上がる時間を確認しつつ、その様子を「ストレスとプレッシャーを感じるよ」とコメントしています。

マクラーレンの製造&組み立てマネージャーのジョノ・ブルックス
マクラーレンの製造&組み立てマネージャーのジョノ・ブルックス
マシンのパーツ製造遅延は解消せず
マシンのパーツ製造遅延は解消せず
各パーツの納品時期を確認
各パーツの納品時期を確認

そして、終わらない作業が続き、徹夜の作業が続き食事も作業場で済ませることが多くなっていきます。

先程のジョノの表情もどんどん疲れ切っていき、ヒゲも伸びていきます。

彼等は、お酒も振る舞われた表舞台の発表会には参加せず、粛々と作業を続けていたわけですが、それでもマシンは完成しません。

その後、寝る暇も惜しんで懸命な作業をした結果、なんとかテストへと輸送するギリギリのタイミングでマシンの組み立ては完成し、スペインへと運ぶチャーターした飛行機に載せることが出来たという状況でした。

マクラーレンの新車がやっと完成
マクラーレンの新車がやっと完成

オフシーズンテストとドライバーのトレーニング

必至の作業で完成してテストに間に合ったマクラーレンF1の新車ですが、シェイクダウンテストが行えていなかった影響もあってか、オフシーズンテストではトラブルが続発し、チームのエースドライバーであるアロンソが怒りのコメントを無線で伝えます。

この辺りは、Amazonのドキュメンタリー映像を見なくても知っている人は多いかもしれません。

そもそも、今回Amazonが撮影したマクラーレン・ホンダのドキュメンタリーは、タイトルのグランプリドライバーにあるように F1ルーキードライバーであるストフェル・バンドーンを中心とした内容になるはずでした。

そのため、ストフェル・バンドーンのトレーニングやスポンサーとのメディア対応などの様子についても多くの時間が割かれています。

変化の兆し

 

しかし、ホンダとマクラーレンの不協和音などもあり、マシンの開発現場に関する内容が当初よりも多くなったようです。

個人的にはドライバーよりも、マシンが出来上がるまでの舞台裏的な方が興味あったので、とても面白い内容でした。

Amazonのグランプリドライバーを見ての感想

マクラーレンホンダの不調について、ホンダ側に一方的に非があるようなニュアンスの記事が多かった印象がありますが、Amazonのグランプリドライバーを見るとマクラーレン側の問題も数多くあったことが分かります。

マクラーレンのファクトリーでホンダのスタッフと、マクラーレン側のスタッフとでやり取りされる内容などはこれまで見ることが出来なかった映像です。

双方のスタッフ共に撮影されていることは分かっている中での態度だったり、コメントなので、その辺は差し引いて見る必要がありますが、F1の開発現場の舞台裏の一部を見れるのは中々ないのでかなり貴重な動画だと思います。

F1が好きな人には是非一度視聴してみるのをお勧めしたいですね。

因みに来年はNetflixから2018年シーズンのF1についての作品がリリースされる予定で、毎レースNetflixが撮影を行っているようです。

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普段Netflixは利用していませんが、F1の作品が見れるようになったらまた加入しようと思っています。

DAZNでもホンダF1現場エンジニアのインタビュー動画などもアップされているので、そちらもファンの方には必見の内容となっています。

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